父母の離婚後の子の養育に関する海外法制調査結果の概要令和2年4月 法務省民事局

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本調査は,法務省において,離婚後の親権制度や子の養育の在り方について,外務省に依頼してG20を含む海外24か国の法制度や運用状況の基本的調査を行ったものである。

本調査では,各国の政府関係者等からの聞き取りや文献調査を基に,各国の離婚後の親権や子の養育の在り方に関する,主として制度面についての取りまとめを行った。もっとも,各国の法制度は様々であり,その法制度によっては直接回答することが困難な事項もあることから,本調査においては各調査事項について網羅的な回答を得られたものではない。

 本調査は,法務省がこれまでに行った海外法制調査より対象国や調査事項を広げて行ったものであり,父母の離婚後の子の養育の在り方を検討するに当たって有用な情報を提供するものである。

1-1 離婚後の親権行使の態様[1]

  印及びトルコでは単独親権のみが認められているが,その他の多くの国では単独親権だけでなく共同親権も認められている。

共同親権を認めている国の中では,①裁判所の判断等がない限り原則として共同親権とする国(伊,豪,独,フィリピン,仏等),②父母の協議により単独親権とすることもできるとする国(加ブリティッシュコロンビア州,スペイン等),③共同で親権を行使することはまれであるとされる国(インドネシア)の例がある。

なお,英及び南アフリカでは,父母のいずれもが,それぞれの親権を単独で行使することができる。

1-2 離婚後に父母が共同して行使する親権の内容

親権を共同行使する事項の具体的内容が明らかになったものの中には,① 内容に限定のない国(スイス,フィリピン,米ワシントンDC),②子にとって著しく重要な事柄等と抽象的に定める国(独),③共同行使する内容を具体的に定める国(伊[教育,健康,子の居所の選択],メキシコ[財産管理権])の例がある。

1-3 離婚後の共同親権の行使について父母が対立する場合の対応

離婚後の共同親権の行使について父母が対立した場合の解決策が明らかになったものの中には,最終的に裁判所が判断するとする国が多い(英,独,ブラジル,米ワシントンDC等)が,それに加えて,当事者があらかじめ紛争解決方法を決めておくこともできるとする国(韓国)や,行政機関が助言・警告等をする国(タイ)もある。

また,裁判所の判断に当たり,外部の専門家や関係機関の関与が認められている国も見られる(伊,スウェーデン,豪等)。

2 協議離婚制度の有無[2]

  子の有無にかかわらず協議離婚が認められていない国が多い(アルゼンチン,英,豪,スイス,独等)。

  これに対し,サウジアラビア,タイ,中国等では協議離婚が認められており,ブラジル及び露では未成年の子がいない場合に限り協議離婚が認められている。

3 父母が離婚時に取決めをする法的義務の有無・内容 ⑴ 面会交流の取決め[3][4]

   取決めをすることが法的義務とはされていない国が多い(アルゼンチン,英,タイ,独,仏,米ニューヨーク州,露等)。

   これに対し,韓,豪,蘭等では,法的義務とされている。

   なお,法的義務とされていない場合でも,離婚のために裁判手続を経る過程で,離婚を認める条件や共同親権に関わる内容として,面会交流に関する取決めがされている例があることがうかがわれる(アルゼンチン,タイ等)。

⑵ 養育費の取決め 3

   取決めをすることが法的義務とはされていない国が多い(英,加ケベック州,スペイン,独,仏,ブラジル,米ニューヨーク州等)。    これに対し,韓,豪,蘭等では,法的義務とされている。

   なお,法的義務とされていない場合でも,離婚のために裁判手続を経る過程で,離婚を認める条件や共同親権に関わる内容として,養育費に関する取決めがされている例があることがうかがわれる(加ケベック州,ブラジル等)。

4 公的機関による面会交流についての支援の有無・内容[5]

  支援制度がある国がほとんどである。具体的な支援の内容としては,父母の教育,カウンセリング,面会交流が適切に行われるよう監督する機関の設置等が挙げられる。

  これに対し,タイ,フィリピン等ではこのような支援制度がない。

5 離婚後に子を監護する親が転居をする場合の制限の有無・内容[6]

  転居に裁判所の許可又は他の親の同意を要するとする国が多い(伊,韓,独,米ニューヨーク州,蘭等)。

  これに対し,豪,タイ,中国等では,制限がない。


[1] 我が国では,離婚の際に,父母の協議又は裁判所の判断により,父母の一方を親権者と定めることとされている(民法第819条)。

[2] 我が国では,夫婦の協議による離婚が認められている(民法第763条)。

[3] 我が国では,協議離婚をするときは父母の協議で定めるとされている(民法第766条第

[4] 項)が,法的義務ではない。

[5] 我が国でも,面会交流の実施支援事業等が行われている。

[6] 我が国では,一般的に,離婚後の転居に関する法令上の制限は設けられていない。