13人の医師が証言 虐待死をめぐる異例の裁判で父親に有罪判決

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幼い長女は虐待で死亡したのか、それとも病気で死亡したのか。検察と弁護側が真っ向から対立する裁判、判決の行方は・・・

(今西貴大被告)「虐待?そんなん絶対にしてないです。すごく愛情をかけて育てていたのにおまえがやったんやろうと言われるのはすごく悔しい。」 今西貴大被告は長女を虐待死させた罪で2018年に逮捕・起訴され、保釈されている時に報道陣に向けて会見を開きました。 (今西被告)「布団の上で遊んでいただけなんですよ。容体が急変したんでそのまま救急車を呼んだ。無実(の罪)をしっかり晴らしたいと思います。」

自身の潔白を訴えるものの、直後に再逮捕され現在まで2年以上勾留されています。 問われているのは、2017年11月から12月、再婚した妻の子どもである長女(当時2歳)の頭に何らかの暴行を加え死亡させたとする傷害致死。 左足のひざの下を骨折させたとする傷害。 そして、わいせつな行為をしたとする強制わいせつ致傷の3つの罪です。

2月に始まった裁判員裁判で、今西被告は「虐待をしたことなどありません。無実です」と起訴内容を否認。

弁護側は、「長女には心筋炎があり、それに伴い暴力以外の様々な原因で心肺停止した可能性がある」と無罪を主張。 一方検察は、「長女のけがは暴力以外によって生じることはない」と指摘しました。

争点は、長女の頭や体のけがが暴力によって生じたものか、それとも病気や自然に生じたものなのか。 それぞれの分野の専門医13人が証人として出廷しました。

長女は自宅で今西被告と2人でいる時に急変し、その後、死亡しました。 今西被告は「布団の上で長女を抱えゴロゴロ転がる遊びをしている途中で、長女が「うっ」と言った」と説明しています。 検察側証人として出廷した脳神経外科医は「(長女の脳の症状は)家庭内の軽微な事故では生じないし、非常に強い回転性の外力でないと生じない」と指摘。 一方、弁護側の脳神経外科医は「長女は異常に出血しやすく、出血はその結果と思われる。外力で損傷した形跡もない。」として虐待とは断定できないと主張しました。

長女は左ひざの下のあたりの骨が折れていました。 今西被告は長女が足を痛がっていたことに気付いて、当時の妻とともに何度も病院に連れて行き、3回目の診察でようやく骨折と分かりました。 検察側の整形外科医は「外力か事故か判別するのは難しい。」 弁護側の整形外科医も「乳幼児は軽い外傷で骨折しやすく、虐待かどうかをレントゲンで区別することはできない」と 両者とも、骨折の原因を特定するのは難しいという意見。 そして強制わいせつ致傷に問われている傷は、検察側の医師は「何らかの暴行によるもの」。 弁護側の医師は「自然に生じたもの」。 ほとんどの争点で意見が分かれたまま裁判は結審しました。

今も勾留されている今西被告。記者との面会で、今の心境を語りました。 勾留されてかなり経ちますけど今は? 「生活自体はしんどいですけど、刑務官の人たちに声をかけてもらって助けられています」 逮捕から一貫して無実を訴えていますけど今も変わりないですか? 「はい変わりません 絶対にありえへんなって思う」  そして裁判については・・・。 「裁判員はみな真剣に考えてくれていると思いました」 判決に望むことは? 「言わんでもわかると思うんですけど」 無罪ということ? 「それ以外ありえへんと思います。」

25日の判決では、それぞれの争点について結論は分かれました。 頭部の損傷については、 「長女が心肺停止した原因は脳の深部を含む広範囲の脳損傷で、相当の強い外力がなければ生じないから、室内での転落転倒などの事故が原因とは考えられない。長女の容体が急変するまではごく短時間で、暴行を加えることができたのは、当時一緒にいた被告しか考えられない。」として有罪。 左足の骨折については。 「被告が目を離したすきにけがをしたなど暴行以外の原因で生じた疑いが残り、暴行で骨折させたと認めるには立証が不十分」として無罪。 そして強制わいせつ致傷については、 「常識的に考えて自然に生じたものとは考えられない」として有罪。 大阪地裁は、 「被告が強い暴行を加え、死亡させたことは明らか」「自己の犯罪に向き合わず、反省は認められない」として今西被告に懲役12年を言い渡しました。

今西被告の弁護団は、脳損傷について「脳の中心部が外力で損傷したという証拠はない」。 強制わいせつ致傷についても「証拠はないと考えているが、そういうことをされたに違いないという思い込みが強く影響した可能性は否定できない」などと判決を不服として控訴する方針です。

異なる医師の意見を元に難しい判断を下すことになった異例の裁判は一つの節目を迎えました。 裁判員は判決後に会見に応じ、率直な心境を明かしました。 「(医学的な知識を)初歩的なところからお話ししていただいてわかりやすかった」という声がある一方、 「丁寧に説明していただいたがそれでも難しかった」 「難しすぎてすべて理解できたかというとできなかった」という感想もありました。 また、 「医師によってこれだけ見解がずれるんだなと言う印象」 「裁くのは非常に難しい」 「家の中で起きたことは(事実の)発見が難しいんだなと思った」と、 主に医学的な証言を元に有罪・無罪を判断することへの困難さがにじんでいました。